エヴェレスト 神々の山嶺 2016 日本 平山秀幸監督
原作未読で鑑賞。
主人公の深町は山の写真で食っていくことを目指す野心家のカメラマン。
ときにその野心が人の顰蹙を買うこともあるが、それをおそれることもなく、突き進もうとする。
カトマンドゥで偶然出遭った伝説的クライマー羽生の人生を調べるうちに、彼に執着を覚え、その前人未到の挑戦に随行、撮影するチャンスを得る。
鑑賞後の最初の感想は「山、やっぱりわからない」だった。
もともと、山をやる人間ではないので、見る前から「山、わからん」と思っていた、それをそのまま引き摺った、更にはどんなに過酷な世界かを知ってますます理解の範疇から外れていった、そんなふうな思いだった。
それが、映画を観終わってから、羽生はなぜすべてを捨てても山に登り続けたのか、他のひとに関心を抱かなかった自己中心的であった深町が、羽生になぜあんなにも惹かれたのか、つらつらと考えているうちに、ふと、それこそ、吹雪で閉ざされていた視界がぱっと開けて山の全貌が見えるときのように、理解した。
彼ら二人のあいだに生まれた共感でもなく友情でもない感情を理解し、山に挑み続けた理由を理解した。
すなわち、私たちの人生もまた山に登るのとそっくり同じだということだ。
目の前の困難にぶつかっても、それを乗り越えなければ先には進めない。
進んだ先に得られるものは他人からすれば何の価値もないかもしれない。
そのいただきは、その人ひとりだけのものだ。
もし、そのいただきを共有できるひとがいるならば、そのひとは限りなく自分の魂に近いひとになるだろう。
重要なのは足を止めないことだ。
兎に角、前へ、前へ、たった一歩でも、一歩に満たなくても、先へ進むことだ。
この映画からもらった力強いメッセージだ。
丁度、3月。
4月から生活が変わる人も多いし(私もその一人だ)、その周囲で自分の生き方にふとした疑問を感じる人もいるだろう。
歩みを止めるのはほんの小さなことだけれど、実際に対峙すれば、とても乗り越えられない大きな岩のように思えるのではないだろうか。
けれど、その岩を越えたとき、そこには、いただきに通じる道が開ける。
目の前が見えないからといって、歩みを止めたら、そこでおしまいだ。
是非、山を登ることに対する先入観を捨てて、観て欲しい。
羽生と深町の結びつきや、前に進む力強さが、きっと力になってくれる。
とても大事な映画になった。
危険ななか、撮影を敢行した映画製作陣、羽生と深町を生きた阿部ちゃん、岡田くんに心から感謝と拍手を送りたい。
映画を観たあと、原作も読んだ。
原作は映画と違って、もっと詳しい山の話があって、映画でわからない部分を補完できた。
深町のキャラ設定が映画とはかなり違っているのだけれども、それは2時間という映画の中に収めることを考えてのことだとインタビューで岡田くんが言っていた。
確かに、原作の深町に2時間で共感するのは難しいので、正解だと思う。
ただ、原作の深町は、より、わかりやすいというか、現実的に理解しやすいキャラクターになっている。
少々、煮え切らないのが、個人的には好きになれないが、まあ、私は白黒はっきりつけたがるきらいがあるので、こういった悩む姿に共感する人の方が多い…のかな。
羽生がなぜ、山をやり始めたのか等も、映画では描かれなかった部分なので、原作もオススメしたい。