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こんなときなのでオススメのパーフェクトな映画3選~2.「落下の王国」

原題「The Fall」ターセム監督作品。2006年。

予告編は盛大にネタバレを含んでいるので下の方に貼ります(なんでなんだ)

 

主演は当時無名に近かったリー・ペイス。なぜ、無名に近かったかは後述。
監督はターセム・シン。前作が「ザ・セル(The Cell)」なので、てっきり最後が「ll」で終わる作品を撮り続けるつもりだと思ったが違った(3作目は「イモータルズ(Immortals)」複数のsがつかなければlで終わったのに)。

【ストーリー】(ネタバレなし)
舞台は「むかしむかしの」ロサンジェルス
主人公ロイは映画の撮影中、スタントで落下して大怪我を負い、病院で動けなくなっていた。
そこへ、オレンジの収穫中に木から落ちて腕を骨折した少女アレクサンドリアが現われる。
ロイはアレクサンドリアをベッドの傍らに呼び寄せ、「落下仲間」として、物語を聞かせる代わりに言うことを聞いてもらう約束をする。
ロイの話す物語はアレクサンドリアの頭の中で、自分たちふたりをはじめとした病院の看護婦や氷の運搬人の形をとって色鮮やかに再現されていく。
だが、楽しかった冒険物語はいつしかロイの精神状態を強く反映し、暗い影を帯び始める。

冒頭、モノクローム映像から始まるシーンから、世界各国の色鮮やかな映像を経て、ときに実験的な映像を挟み込み、最後の最後に至るまで、完璧に美しい映画。
おそらくこれ以上に美しい映画というのはこれまでもこれからも存在しえないのではないかと思う。

体の自由を失い絶望に陥ったロイに対し、その物語を必死に聞く少女アレクサンドリアがめちゃくちゃに可愛い。監督もコメンタリーで「彼女の手が可愛い」と絶賛しているが、本当に癒されるかたちのぽったりした子供の手をしている。
ロイは病室にいるときは神経質そうな線の弱い青年だが、アレクサンドリアの想像の中では精悍で勇敢な戦士だ。とても素敵で、どんな美女も恋に落ちる。
アレクサンドリアは現実でも想像でも、勇気のある少女だ。何も疑わずにまっすぐに生きている。

眼を奪うのは冒険物語の舞台となる世界各国の風景と世界遺産の数々。特にカメラが初めてはいるところもあり、こんなものが存在するの?CGじゃないの?と思うところも。
しかも衣装は石岡瑛子が手掛けているので、これもまた眼を瞠る奇想天外で美しいものばかり。
見所だらけで眼が忙しいかと思いきや、ものすごくタイトにまとまったストーリー展開と、破綻のない構造で、とっちらかったところ、ほころびひとつ見つからないというまさに奇跡の映画。

この映画を観たことがひとつの体験であり、宝物になる。そういう類の映画だと思います。

以下、ネタバレあり改行します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


映画「落下の王国」予告


監督自ら8、9年かかって探したという主演をつとめる少女カティンカ・アンタルーちゃんがいなかったらこの映画は成立しない!というくらい、このカティンカちゃんのピュアさが凄い。
たぶん、この子が出てきた瞬間に泣くひとは私だけじゃないはず。
ものすごいノスタルジアを感じさせる少女だと思う。
観客ひとりひとりがこの子を観たとき、自分の子供時代を思い出してしまう。不思議な魅力のある女の子。

主演のリー・ペイスは当時、ほとんど知られていなかった。
というのも、主演映画はたった一本。それもTV映画で、トランスジェンダーの役だったから、素顔の彼を見て判別できる人はほとんどいなかったはず。
それをいいことに(と監督が言っていた)、監督はカティンカちゃんを含む共演者に彼が実際に下半身不随の俳優で車椅子でなければ動けないということにした。もちろん、演技初体験のカティンカちゃんをおもんばかってのことだと思うが、監督とスタッフのうちほんの数名(彼のメイクアップ等、どうしてもバレてしまう相手)以外には秘密だったというのだから徹底している。

カティンカちゃんは動けないロイというかリー・ペイスに恋に落ちてしまった(可愛い)。
ラブレターを書いてみたり、ロイの前でしかお話しなかったり。
そこで監督は一計を案じ、なんと隠しカメラで二人を撮影することまでやってのけた。本編にあるカーテンで締め切った病室シーンは隠し撮りだ(監督怖い)。
更に、ロイがアレクサンドリアを怒鳴ってアレクサンドリアが泣き出すシーンでは、カティンカちゃんがリー・ペイスを好きなあまり全然泣くことができず、仕方がないので、監督はリー・ペイスにカティンカちゃんを本名で叱るように命じた(監督怖い)。
劇中、ロイが怒鳴って彼女が泣き出すシーンは、上からアテレコで声をかぶせているが、唇の動きは「カティンカ!」と叫んでいるのがわかる。それで本当に泣き出しちゃったカティンカちゃん可愛そう。
でもそういう真実の涙だからこそ観客の心を掴むのかも・・・カティンカちゃんが泣いてるとこちらも泣けてくるし、怒ってるとこちらも怒りがわいてくる。
彼女の怒りは、前に進むパワーだ。

さて、そんな彼女も病院シーン撮影後にリー・ペイスの秘密を知って、冒険シーンに臨むことになる。なんと2年後。
そう、冒険シーンのカティンカちゃんは2年後のカティンカちゃんなのだ!(だから歯が抜けてる・・・可愛すぎかよ)

尚、カティンカちゃんはその後、女優を目指して勉強中!
またどこかの映画で出会う日も来るのかもしれない。

リー・ペイスは、「プッシング・デイジー」で一躍TVドラマの人気者になり、その後は「ホビット」でスランドゥイル様を演じるなど大躍進。
でも、カメレオン俳優すぎて、ロイはどこにも見当たらない・・・ロイはこの映画だけに存在するんだなあと妙な感慨に浸ったりしてしまう。ロイ、好きなんだよなあ。なんか頼りないんだけど。

尚、初回だけかな、特典映像としてDVDには(他メディア未確認)ターセムのコメンタリ、ロケーション紹介、ターセムのショートムービー、未公開シーンなどが含まれております。

ここに書いた情報は概ねターセムのコメンタリに拠るものです(しかもウロだから間違えてたらごめんね)。

 

ちなみにリー・ペイスが「落下の王国」前にTV映画で主演をはった「Soldier's Girl」、日本では残念ながら観ることができませんが、実際の話に基いた兵士とトランスジェンダーの女性の恋の物語で、非常に良いので、機会がありましたら是非・・・。リー・ペイスが女性以上に美しい女性を演じています。


Soldier's Girl Trailer


Soldier's Girl - BTS Lee Pace to Calpernia Addams