イムデベ!

個人的偏見と傾向による映画・音楽・本紹介&レポ

こんなときなのでオススメのパーフェクトな映画3選~1.「ベルリン 天使の詩」

ヴィム・ヴェンダース監督作品。1987年。

主演の俳優たちは皆さん、天国に行かれてしまいましたね。早い。
公開当時、単館上映だったのが口コミで広がって、劇場のビルをぐるりと並ぶ列ができてニュースになったことを懐かしく思い出します。
私は映画館に行けなかったので(年齢的に)、あとでレーザーディスク(!)を買って観ました。
今でも、いちばん好きな映画は?と聞かれたら迷いなく、コレを答えます。

(トレイラーを貼ろうと思ったのですが、日本語版トレイラーはガチでネタバレな上に外国版にはトレイラーが無かったので、最も美しいシーンのひとつ(ネタバレなし)の図書館シーンを貼っておきます)


Symphony of Thought Wings of Desire 1 4 Movie CLIP 1987 HD

【ストーリー】(ネタバレなし)
天使ダミエルはベルリン(当時はまだベルリンの壁が崩壊する前)を見守っている天使のひとり。
友人のまじめな天使カシエルと、人の営みを見守り、報告し合っている。
彼らは人の心の声を聞くことができる。
直接関与することはできないが、人の心をほんの少し落ち着かせたり、癒したりすることができる。
彼らを見ることができるのは子供たちだけ。
ある日、ダミエルはサーカスのブランコ乗りの女性マリオンに恋をする。
マリオンのためにダミエルは人間になりたいと願うようになる。
そこへ映画撮影に訪れた俳優ピーター・フォークが現われて……。


天使の見る世界は白黒。人の見る世界はカラー。
仕掛けはほぼこのふたつだけというシンプルな設定で描かれるファンタジー
とにかく、台詞と映像の極限まで削られた美しさが際立っている。
天使たちは人の始まり以前からこの世界にいるので、戦争の記憶も、街にオーバーラップされて甦る。
当時のポツダム広場や、ベルリンの壁には戦争の跡が色濃く残っており、天使たちの眼から観た戦争という斬新な視点(彼らは天使なので東西ベルリンを行き来できる)と共に、戦争の悲しさも織り込まれたラブストーリーになっている。
マリオンは天使ではないけれど羽をつけてブランコに乗る美しい女性。夜になると地下のライブハウスで、ニック・ケイブの音楽に身をゆだねる。
地上では図書館を包むロバート・プティガンの天上の音楽。
ベルリンの地下を揺らすニック・ケイブの低音。
その体に触れたいと思うダミエルと、そんな友を複雑な思いで眺めるカシエルの対比が切ない。

実はこの映画、脚本はなく、ペーター・ハントケ(昨年ノーベル賞を受賞)の書いた詩だけを頼りにヴィム・ヴェンダースがほんの数週間(4週間だったかな)で撮った作品。
途中までピーター・フォークもキャスティングされておらず、そのために、他の映画とはまったく違うリズムの映画になっている。
心を落ち着かせるダミエルの声や、ベルリンの日常の音、最高の音楽、それから美しいモノクロ映像、どこをとってもパーフェクトな映画。
人であることの美しさに気付かされ、慰められます。
無心になりたいとき、落ち着きたいとき、落ち込んだときにおすすめです。

#尚、リメイク版を騙っている「シティ・オブ・エンジェル」は

#全く異なる作品ですので、お気をつけください。

#観る価値ゼロのパクリ映画です。

 

※以下、ネタバレあり。改行します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個人的には、私はカシエルが大好きで、オットー・ザンダーのちょっと人をからかっているような笑みだとか、硬質な美貌だとかが、すごくカシエルを魅力的に見せてると思うんですけど、彼が図書館で老人の語る心の声を聞いているときの優しさ、自殺しようとしているひとを助けられなかったときの慟哭、そして友が天使でなくなっていくのを見守るせつなさが、本当に思い出すだけでも、胸がぎゅっとなる感じです。観てほしい。
実はこの映画、続編があって、「ファラウェイ・ソー・クロース」というタイトルでカシエルが人間になる話なんですけど、こちらはちゃんと脚本があるのでだいぶ雰囲気が違います。
もし、「ベルリン・天使の詩」がすごくすごく好きになって、カシエルのその後が知りたい!と思ったかたにはお勧めしますが、カシエルにそこまで思いいれが無い方にはオススメできない映画となっております。
でも、ウィレム・デフォーも出演していて、かなり豪華。
ちなみにテーマ曲はU2が歌っていて、そのPVはヴィム・ヴェンダースが撮ったので、カシエル役のオットー・ザンダーが人間役、U2が天使役で出演しています。これはオススメ。


Stay Faraway, so close ! U2


ダミエルは人の世界がすごく好きな天使なんですね。
人の世界っていうか、人、かな。
カシエルは戦争のこともあるからちょっと引いてるところもあるんですよ。
人の営みを眺めるのは好きだけど、その中に入っていこうとは思ってなかったというか。
ダミエルはほんのちょっとしたことでも憧れてて、それがとてもかわいらしい。
人になったとき、初めて見る色に心を奪われて、子供みたいに「あの色は?あっちの色は?」って、ベルリンの壁に絵を描いてた人に聞くんだけど、聞かれたほうも教えているうちに嬉しくなっちゃう。
コーヒーでも飲めよってお金をくれる。
そういう、ほんの少しの優しさを、ダミエルは愛してて、それがすごく心に沁みる。普段忘れちゃってる優しさだなあって。
で、コーヒーを飲むとかじかんでいた指先が温まる。そのことにも感動するわけ。
それも、私たちが子供のときに体験して、今では忘れていることなんだよね。
そんなふうに生きているということをひとつひとつ、輝いている宝石のように見せてくれるダミエル。

一方、ピーダー・フォークはピーター・フォーク役で出てるんですけど、元天使なのね。
で、ダミエルに色々そういうことを吹き込むわけ。
人間になったら、こういうことができるよ、ああいうことができるよって。
でも、彼も今は人間だから、心の中で色々なことを考える。
すごく矛盾していて、とっちらかっていて、でも誰かが聞いたらくすっと笑っちゃうようなことを。

徹頭徹尾、優しい映画です。
だから、たぶん、続編は優しくない映画になってしまったんだと思うんですけど、「ベルリン・天使の詩」はベルリンの壁がある世界で、最も優しい映画だと思います。

この映画、先にも書いたように脚本もなく撮っているのでアウトテイクがかなり沢山あるんですね。
長いものだと、ラストシーン、人になったダミアンとマリオンが出会って恋に落ちるシーン。
あれを最初、ヴェンダースはカシエルも人間になっているという話にして、三人でパイをぶつけ合うというシーンを撮っていて、これがものすごくバカバカしいんだけど、可愛い(笑)
間違いなく、このシーンを映画に入れてたらぶち壊しだったんだけど。

あと、カシエルが大好きな図書館の老人役の人は本当に年の方で、撮影中、しょっちゅう気を失って倒れるふりをしていたそうで、そのたびに傍に立っているオットー・ザンダーが抱きとめていたそうです。
で、抱きとめると、ヒヒヒと笑って、「私の天使」とオットーを呼んでいたとか。

この映画、撮影は伝説のアンリ・アルカンが手掛けています。
どんだけ伝説かっていうと、コクトーの「美女と野獣」は彼がまだ若かったときの作品で(なのでコクトーの撮影日記ではよく怒られている)、その後は様々な有名というか伝説映画を撮影。
ローマの休日」もアンリ・アルカンが撮影した映画のひとつです。
ヴェンダースが天使の世界を白黒と決めたときに、白黒を撮るならこの人!と呼んだとのこと

それにしても、マリオンを演じたゾルヴェイク・ドマルタンは40代で、カシエル演じたオットー・ザンダーとダミエル演じたブルーノ・ガンツは二人とも70代で亡くなってしまいました…この美しい映画が観られることなく埋もれずに、いつまでも人の心を優しくしてくれる映画として観続けられるといいなと思います。

長い映画なので、STAY HOMEのあいだに是非。

最後に地下で轟音を響かせるニック・ケイブの曲を映画のシーンから(これは映画のラストシーンなので、是非本編を観てから)。


From Her to Eternity - Nick Cave & the Bad Seeds